「たまる」との出会いを思い出してみる。
我が家には子供がいない。
私に原因があり、子供をあきらめることになった。
それは私にとって絶望的なことだった。
友人とは自分から交流を絶ち、仕事も辞め、ノイローゼ状態に陥っていた。
「犬を飼おう」そう思った。
ペットがいればこの悲しみが癒えるかもしれない、と
主人も協力してくれ、小型犬飼育可の物件に引っ越した。
豆柴が好きで、遠方のブリーダーさんから譲り受けることにし、
生まれるのを待っていた。
ある夜、自宅前の道路から子猫の鳴き声が聞こえた。
ベランダに出て周りを見渡すが、猫がいる様子はない。
夜中もずっと鳴き声は続いていた。
朝になって夫と鳴き声のするあたりを見に行くと、
下水管が集まっている側溝の石の下で鳴いているではないか。
やじ馬のおばさんたちに見られながら、夫が重い石を持ち上げ、
排水管から汚水でドロドロになった生き物を引っ張り出した。あまりにも小さくて真っ黒だったので、ねずみかと思い、ぎょっとしたのを覚えている。
とりあえず水で洗い、牛乳を与えてみるが飲まない。
夏だが1日中汚水に浸かっていたため、体が冷え切っていたのだろう。
人に捨てられたか、親とはぐれたか、一人でうろうろしているうちに
溝に落ちてしまったようだ。
体を拭いて、段ボールに入れて道路に置いてみた。
でもすぐに心配になり家に連れて帰った。
とりあえず動物病院へ連れて行き、インターフェロンの注射を何本も打った。
獣医師から「猫は貰い手を見つけるのは難しいよ。あなたが飼ったら」と言われ驚いた。
動物愛護センターに連れて行けば新しい飼い主が見つかるのかと思っていたのだ。
なんて無知だったのだろう。殺処分されたかもしれないのに。犬のブリーダーさんにお断りのメールを出し、
生まれて初めての猫との生活が始まった。
「たまる」との出会い。
私の人生を大きく変えていった。
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